寄書 嶽陽美術會展覽會を觀る
深澤信
『みづゑ』第七十
明治43年12月3日
嶽陽美術會展覽會は、静岡市好畫者數名の主催によつて静岡物産陳列館樓上に於いて、開かれた。
九月十五日
たまたま細雨は落ちぬ。午後二時陳列館に向った。會場は七室に分れて居る。
第二室は大部水彩畫にして、中に二三葉の色鉛筆畫及びパステル畫があつた、水彩畫には三宅氏の『小路』、『月夜』及び、『田舎家の裏』、岡氏の色鉛筆畫、『乙女の顔』、安藤氏の『おぼろ夜』等見る者をして、皆其の精巧なるを感ぜしめた。或る者は、土佐派の繪と比較して、頻りに感心して居る。第二室以下七室迄は大部油繪に其の席をしめられた。中に小さなパステ畫もあつた。
第三室と覺える。和田氏の『大島の風俗』、實に天下の大作であるまいかと思はれた。牛小屋の構造より、立てる婦人の姿は一目見て、大島の風俗を思ひ出さしむ。又黑田氏の菊、某氏のエジプトの月、模寫なれど、原畫はターナ氏の筆になれる難波船を見ては、一度も上京せぬ余をして、大平洋白馬兩會に、入らしめた感をおこさせた。