寄書 スケッチ行
曉夢生
『みづゑ』第七十二
明治44年2月3日
二日は正月には珍らしい程暖かで風のない日なので、友人R君と描初めと洒落かけてスケッチに出掛けた、廣瀬川に架つてる長い越路橋を渡る、橋の上から碧く澄んだ水、上流下流の山々、インヂゴの森などを眺めると、ほんとに心が清々する、對岸を川に沿ふて上流の方に五六丁も行くと、此處は評定河原と云ふ、大分いい名前なんだ、僕はとある岩の上に畫架を据えた、川や河原を前景として對岸のポプラ樹の二三本ある牧場を寫生しはじめた、二人は無言のまま二時間許り突つき廻して、やっと八ッ切の稽古繪二枚を得た、短かい冬の日の、太陽はまもなく落ちた、思ひ出したやうに寒い寒い北山颪しが、颯っと身を斬るやうに吹いた。
又橋を通った時分に、蒸氣殺菌所の汽笛が、けたたましく、乾いた夕方の空氣に、警いた。