寄書 大坂松原天彩畫塾新年會


『みづゑ』第七十二
明治44年2月3日

 天彩畫塾新年會は例年の通り十三日夜、先生の宅で催された。
 集まる者二十餘人、それに仲居さんが二人加はつて居た。
 餘興。第一には高木君の琵琶とあり、悲壯の感に打たれたとでも言ふのか皆六ヶ敷しい顔して聞いて居た。次ほ先生の假装。ツケヒゲの紳士がシルクハットに紋附といふ御英姿。誰やらが『田舎の名譽職』と言ふ。
  玩具の太鼓が鳴り出す、三味線と一所にカナダラヒをたゝく、まるで天神祭だ。それから村田、平石君の本式の剱舞が始まる。
 長谷川君はハナシだ、流暢で少しも淀まないところ秀逸だらう。
 十川君が假聲を、おやりなさる。芝居を見ない人には分らないけれど巧いのだらう。安達、高橋、橋本君の二〇加は、笑はずんばあるべからざるもので大喝釆。榎谷君の英語の唱歌は唐人臭い毛色の變つたもの。鷲尾君は變装印度人。
 これで一寸餘興をやる人が無くなる。併し、興は盡きないと見えて今度は、跳り出した。A君は顔に白粉塗つてカヅラを冠つて鉢巻して御座る。四五人は機械的に手をたゝいて、歌をうた つて居る。活動寫眞的に跳る人もある。中々の盛會だつた。
 十二時前になつたときK君が、君が代をうたつて散會しやうと言つたら、頼りない聲で、歌ひ出した。こつちでキミガアと言 ふてるかと思ふと、あつちでサザレーイシノーとやつて居る。
  (十三日夜 OW生)
 

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