眼を楽しませる形について
『みづゑ』第七十三
明治44年3月3日
曲線より成る形は直線より成るものよりも眼を樂しましむ。眼は曲線を辿りて其變化を見ればなり。直線より成る形には此興味なけれど正確と明瞭とが其長所なるべし。
方と圓とは兩樣の最も單純なる形なり。何れも正確と明瞭とを認むれど對照の變化には乏し。
全くの方形ならず、方形に近きものと、全くの圓形ならず、圓形に近きものは、共に眼障りなり。之れ其形が明瞭ならざるによる。眼は之を見て識別に困難なればなり。正確と對照の變化とは是等の形には判然せず。
對照の變化に富み、併かも其形の明確なるものこそ最も眼を樂しましむるものなれ。(寫生趣味)
シドニーの港ヘヘンリーデビツト筆