色彩の見方について


『みづゑ』第七十六
明治44年6月3日

 圖畫と云ふものゝ練習のない眼では丸い盆を斜に見てもヤハリ眞丸く見えるやうに思つて居る。白百合の花は明るい縁端でも暗い座敷の中でも同じやうに白いものと心得て居る人が多いやうである。色彩の方のことは形ちを見るよりも一層の熟練を要することで。同じ色でも場合に依つては全く違ふ色に見えるものである通常素人が物を見るには其外形と持前の色とを見るのである。持前の色と云ふのは其物を側で見た時の色で著るしい光も影も著いて居らぬものを毎も其物の色と決めて居ることである。(欽)

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