弔辭四篇 柩の御前に
田澤操子
『みづゑ』第八十一
明治44年11月15日
逝きし君の枢の前に泣きぬればありし昨日を戀しのふかな
聲あけてなけともすへのあらさりき死とはかくまてわひしきものか
悄然と香のけふりを見てあればまた新らしき悲しみのわく
柩もる夜のしゝまのわりなさによわき子またもなみたするかな
やるせなき悲しさのみそせまり來てあゝまたしても涙さしくむ
るり色のつはさひろげてゆく秋はみたまをのせて遙に去りぬ
夢に似しかの土曜日のつきかけは世をばたのしとおもひてしかと
しみしみと物思はする夕くれぞ淋しや暮れて逝くこの秋よ
かく許り世とははかなきものなりき一人生れてひとり死にゆく
及ひなきさひしさなりや人の子の世にのこされしあはれかなしみ
町はつれとふらひのむれはねりゆきて生のをはりの淋しさ見えぬ
オーロラのかけは東夜はあけて「今日」は來ぬれと逝きし君はも
雜司ヶ谷くぬきの花のさくところ眠れるたまよやすけくおはせ
野菊さき小さきむしは逝く秋のよことになきて御墓もるらん
燈臺の光は消えぬわたの原ゆくてのやみは波のみたかし