弔辭四篇 落葉と共に逝きたまひし

竹内久子
『みづゑ』第八十一
明治44年11月15日

 秋の日落葉と共に逝き給ひし先生の面影は、靜かな淋しき秋の樣な方でした、先生も秋を好みて居られしが、其秋に世を去りし事の、いと淋しく感じ候、先生は眞面目と正しい方で、一度逢た方に、懷しい感じを起させる方でした、それても時々無邪氣な話をして、笑せる事があります、旅行と讀書は大好きでした、一時でも手をあかして居られる事は嫌ひでした、それに手紙をよく御書きになりまして、夜分他より十時頃御歸りになりましても、手紙を五六通おかきになり、日記をつけてから御休みになります、叉客の訪問を受けましても、御留守でないかぎりは御目にかゝりました、草花も大好きでした、白き花はなほ好きでした、家庭にありては、愛心深き暖かき主人にて、主從も隔てなき美はしき家庭でした、私も時々旅行に、家庭に家族の一人となる事が、御座ります、それも今は思出の種となりました、先生の死は夢の様です、永き年月、師の御敎を受けましたが、其面影を忍んては悲しき思出の、追懐に耽て居ります。

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