短歌九首

奥村博
『みづゑ』第八十一
明治44年11月15日

 うつむきてしほれかゝりしダーリァよ 我が師の死をば汝も悲しむや
 逝きし師を思ふ悲しさやるせなさ のきには冷き秋雨の降る
 雜司ヶ谷の森なつかしや師のみたま 在すと思へぱなつかしきかな
 此夕べ師の墓標をばくりかへし くりかへし讀み叉も涙す
 逝きし師をおくらんが爲夜の汽車に 乗りて都に向ふ悲しさ
 ひとり師のみ墓に行きてハモニカを 吹くがことさらうれしきかなや
 栗の實をくひつぶしつゝ逝きし師を 思へりいつか涙こぼるゝ
 おそ秋の淋しき晝をおくつきに ひとり悲しむ吾を思へ師よ
 師のみたまとはに安かれと此日頃 線香の香に親しみてあり

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