亡き夫をしのびて
春子
『みづゑ』第八十一
明治44年11月15日
けふよりはたれにかたらむうきことを つけなむ君のなしとおもへば
もろともにみはかのもとにおもふかな 心にかゝる菊の一もと
いたましき和子おもへばおしからぬ 命なれどもおしまるゝかな
消ゆるべきときはともにとちかひしを つれなや君はひとり行きます
う津しゑはありし昔にかはらねど 言葉かはさむすべもあらじな
かたみたになくは何とてながらえつ おもふもつらきかゝるうき世に
おもひきやま白ききぬにつゝまれて 君がみひつきおくりまつるとは
さちうすき子をも妻をもふりすてし みたまやいつこかヘりませ君
かりの世のちぎりはよしや淺くとも ふかくちかはん二世のちぎりを
日毎日毎みはかに通ふ野邊の道 虫の音さえもいとゞほそりぬ
もみぢ葉の散るよりはやく逝きませし 君がおもかげいかで忘れん
惜しまるゝ君は逝きましかひもなき 身をはながらえていかにおくらん
秋深し夜ごとに通ふ夢まくら さめてはまたも涙こぼるゝ
亡き君はいたむ玉づさ數ぞひて なをおもふかな秋の夕くれ
うつくしき花輪のもとに和かせこの みたまはとはにねむりますらむ
もみぢ葉はきにくれなひに色ませど 繪筆そめます君はいまさず
十和田湖の秋はかたみとなりにける この秋またで散りし君はも
木がらしのおとなひくればまたさらに 君がおくつき戀ぞわすらふ
さちうすき身をなげくよりかなしきは 君がよはひのあまりみちかき
亡き夫のめてたまひたる白菊は 君まちがほに咲きそめにける