パレツト評判記(二)

北山清太郎キタヤマセイタロウ(1888-1945)

エス、キタヤマ
『みづゑ』第八十三
明治45年1月3日

 故大下藤次郎氏のパレツトパレツトと一口に言ッても段々ある、これはまた素適滅法界に上等のパレツトで、さうして今は大下家の家寳の一ッに列せられた榮譽ある、遣愛のバレツトなのである。
 何でも三十六年の春頃英國のニユマンと言ふ老彩料店から洋行中に購められたさうでアルミニユム製の二枚折で、裏にはNEWMAN.と刻印が銘てある、三寸八分に八寸ど言ふ大きな――割合に輕い――品物だ、中は矢つ張りヱナメル塗り、仕切は十五付いて居る、價は幾らしたか誰にも分らない、があまり安くはなかつたらうと想像が出來る、そして三十六年から、つい此間まで御奉公した此パレツトの何處に一點の傷もなければ、無論修繕した跡も認められぬ――左の端から列べられた繪具の名を擧げれば、ホワイト。レモンヱロー。オレオリン。カドミウムミツドル。ヱーロオーカ。バーミリオン。ライトレツト。バーントシーナ。ブラウンマダー。ローズマダー。
 ブラウンピンク。インヂゴー。コパルト。オルトラマリン。ビリヂアンと云ふ順序でホワイトの場所の内隅にネープルスヱロー、パレツトの眞中にコバルトグリーンが押出されて居る――繪具は大底ニユマンだがニユトンの乾製を煉り直して使はれたことも覺えて居る。次は誰?

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