寫生用透視畫法 二

真野紀太郎マノキタロウ(1971-1958) 作者一覧へ

眞野紀太郎
『みづゑ』第八十五
明治45年3月3日

 今畫者は、坐して一間半前に在る洋書を寫生すると假定せよ、之を平面圖にて示せは、第五圖の如き圖形となる、Aは畫者にして、BCは洋書、DEは畫面にして、A畫者よりDE畫面迄の距離六尺、DEよりBC洋書迄三尺、且洋書の大さはCB一尺、CF七寸、厚さ五寸とす、之を畫法に依つて畫かんとすれば、第六圖の如く、DE線を引き、(此線は后に畫面の底邊と成るべきもの)次にHL水平線を引く、之の場合、畫者は坐して居る故、高三尺即中視線上、GよりP迄、Pを通してHLを引き、第五圖のPA(六尺)を、PよりSPに量り、次に洋書の位置は、畫者の左若干なるC´B´をGより左にC´B´と記す、又本の厚さも、C´K、B´Jと記す、斯くすれば、要件なる畫者の高さ、畫面との距離、及洋書の位置等、記し了れるものなり、爰に注意すべきは、如何にして、線の消失點を見出し得るやの問題である、之に付き、次の要件を話す必要がある、總て畫面内の線の消失點は、SP點(六圖)より、其方向と仝しく引く線か、HL線と交る點に消失するものである、即ち五圖の洋書の、C´CF及B´Bの如く、畫面内直角の方向にある線の消失點を求むるには、之と仝方向に、六圖SPより引く線と、HLとの交點、即ちPに消失するものである、又五圖のCC´´、FF´´、の樣に、畫面と四十五度の角をなす線(之の線は物の奥行を量る爲め、便宜上引く線)の消點も、前法と同樣SPより四十五度の角に引く線と、HLとの交點DPに消失するものである、斯樣に線の消失點を作り置き、此透視圖を畫くのである、先づ六圖B´C´と、Pとを結ぴ、洋書の奥行三尺の點を求むるには、DE線上、右にC´(三尺)を量り、C´´とDPとを結び、C´P線とCに交る、此C´Cは實尺三尺が畫面に現はる奥行である、次にCより水平に線を引き、Bを得、又本の奥行CFを定むるには、C´´の右ヘF´´を量り、此點とDPとの交點Fを得べし、次に厚さは、J及KとPを結びたる線と、C及Bよりの垂線に因つて、洋書を畫き終るのである、以上は透視畫法の主要なる約束を話したので、此外畫面内に於て、角をなす物體、及傾斜する物體、並に陰影畫法等あれど、其は進むに從ひ、話すことにして、次よりは題を設け、説明します。
 

 第一題八疊敷坐敷を寫すこと(第七圖)
 畫者の高三尺(坐して寫生する場合)
 畫者と畫面の距離一間半(坐敷の入口より、又云ひ替れば、畫になる點より、畫者迄の距離)
 畫者の位置は、坐敷の中央より、少しく右に片寄りて坐すこと。
 

 

 斯樣の場合は、透視圖法にて畫くには、始にAB線を引き、比例尺の三尺を以て、間口二間ABを量り、三尺つゝに123之記し、畫者の位置は中央より少し右に寄せて、垂線を引、畫者の高三尺Pを記し、Pを通し、HL水平線を引き、PよりSP點距離なる一間半を量り、奥行を量るべきDP(SPより四十五度の線を引き、HLと交る點)を定む、斯く寸法を記したる後、奥行二間を求めんとせは、BよりDPに引く線と、AP線との交點Cにして、又三尺つゝの點を求めんには、123を、DPに引く線と、APとの交點1´2´3´に因つて知る事が出來ます、次に123より、Pに引く線と、1´2´3´より水平に引く線に因て、圖に示す如く、疊の遠近圖を畫かれます、若し坐敷の大さを畫くとせは、BF(Bより天井迄の高)AEを立て、EFよりPに引く線と、Cよりの垂線G、又Gよりの水平線とFPとの交點Kに因つて、坐敷の奥行を、畫くことが出來ます。

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