諸展覽會


『みづゑ』第八十五
明治45年3月3日

 日本美術協會主催の第四十八回美術展覽會は愈々來る四月一日より五月十日迄同協會列品館に於て開催することに決定し此程該展覽會規則を發表せしが其要梗を摘録せば左の如し。
△本展覽會は新製の繪畫を陳列して公衆の觀覽に供し精密なる審査を爲して等差を判明ならしめ以て其進歩奨勵を計るを目的とす。
△出品は圖様及紙絹寸法等隨意たるべしと雖も其數は一名三點以内とす。
 但屏風は一雙を一點とす。
△出品は鑑査委員に於て精密の鑑査を爲し其撰に上りたるものに限り陳列するものとす。
△出品は必ず三月十日より同廿五日迄に出品目録を添ヘ本展覽會事務所に送附あるべし。但歴史畫、眞景畫等は必要の解説書を添ふべし。
△出品は別に定むる所の審査規則に採り盡く之を審査し左の褒賞を賂與ずるものとす。
 金牌銀牌銅牌褒状
△審査委員の出品に限り審査を加ヘず、本會の展覽會に於て金牌を受領せし者及帝室技藝員の出品は出品人の希望ある場合に限り審査を加ヘぬ。
△參考品として優逸なる古畫を陳列し觀覧に供するものとす。尚ほ開會は發展の一方法として閉會後大阪市若くは名古屋市に於て新畫の展覽會を開催する計畫ありと云ふ。
○金工競技會の開期日本金工協會主催の金工競技會は來る三月開催する筈なりしも去る三日の臨時総會に於て豫定の期日を延ばし來る五月を以て竹の臺陳列館に於て開催することに改定せりと尚ほ會揚は一時日本美術協會の列品館を以て之に充つる説ありしも都合に依り竹の臺陳列館に變更せりと云ふ。
○美術鑒賞雅會書畫骨董品に趣味を有する、あらゆる階級の同好者連四十名の組織なる美術鑒賞雅書の第四回例會は來る十一日午後一時より上野公園韻松亭に於て開催し各自携帯品を陳列して鑒賞をなすと云ふ。
○竹坂畫伯百幅畫會尾竹竹披氏が客臘大阪飯田呉服店美術部の依囑に應じて揮毫せる百幅(尺八、尺五)は表装竣成せしに付來る十一日より十七日まで同店に陳列して公衆の縦覽を請ひ汎く質約に應ずる由。
○東京勸業展覽會本年の同展覽會は製作工業品に制限を加へ美術及美術工藝品を擴張したる結果美術に關係ある出品は前回に比し其數を增加すべき傾向あり殊に昨年不成績なりし彫金の如きは金工競技會延期の爲め意外に多數の出品を見るべく叉本年は「書」の美術部に加ヘられたる一事にても會增を賑はすべき状態なりと云ふ。
○爲眞展覽會東京寫眞研究會の展覽會は來る三月三日より卅日迄上野竹の臺陳列館に於て開催する筈なるが今回は會員奮つて多數の出品をなすのみならず會員外の出品少からず且つ「ツアイス」、「イーストマン」、「イルホード」、「ナートカイプ」諸會批よりの海外出品畫もありと云ふ。
○日本圖案會同會にては來る廿五日常盤木倶樂部に於て發會を催ふす由なるが常日は目下募集中なる夏物八王子産織物に使用する「レツテル」(縦八寸充分、横三寸六分、八王子産のお召或は男女用高價なる縞絹織物の一反毎に装飾用として貼付するもの)の審査を發表し且つ餘興として柴錦子、仝美佐子の歌澤振り(綱上)、鶴賀加賀太夫の新内節(膝栗毛)等ありと因に右の懸賞圖案には一等廿五圓以下三等五十銭までの賞金を贈與する由にて締切期日は廿五日の正午迄なりと。
○健筆會展覽會同展覽會は本年も開催することに決し來る五月廿日より六月十日迄美術協會列品館に於て開會する由なり。
 美術界雜爼
△彫刻界の耆宿たる石川光明氏は豫て其好事家の需めに應じ加茂神社葵祭の行列人形を彫刻中なるが右は人物の大小四寸位にして精巧なる木彫として一昨年より今日まで既に百餘個の人物を彫刻せるも其総數は三百餘個に上り其の中には乗馬の人物少からず旦つ諸種の什器等もあれば全く竣功する迄には尚ほ數年を要すべしと尚ほ氏の此彫刻に從事するや衣冠装束等悉く故實に違はざらんことを期し古書に就て稽査するは勿論毎歳祭典擧行の際は態々京都に赴きて親しく調査する等苦心惨憺、專ら精力を熱注しつゝありと云ヘば竣成の上は同氏一代の大作なるのみならず明治彫刻界に紀念すべき作品たらんと云ふ△目下大阪に滞在中なる小室翠雲氏は本月中、又山岡米華氏は來月上旬何れも歸京する筈△益田棋岳氏の壬子畫會は來る十八日神田明神境内開化樓に於て開催△芝景川氏の第七回畫會は來る十七日牛込區通寺町求友亭に於て開催△前報せし小山雪耕氏の日本千勝畫會は來る四月三日上野公園常盤華壇に於いて發會を催をすに決定せり△佐藤紫烟氏は過日★王子町に赴き同地大善寺の金地六曲屏風に墨畫の老松を描きたりと△川合玉堂氏は目下北自川宮家の御用にて襖二十餘枝に梅花を揮毫中なりと云ヘるが右は連續せる大作にして頗る美事なるものと聞けり△田南岳嶂は一月以來普通の依頼畫を謝絶し專心寫生及び古畫の研究に從事しつゝあるが各展覽會には奮つて其作品を出す覺悟なりと△三越呉服店寫眞部にては例に依り懸賞を以て寫眞畫を募集しつゝあり圖題は「山と水」にて締切期限は三月二十日迄なるが賞金は一等五十圓、二等卅圓、三等十圓、四等五圓、五等二圓なり△國華倶樂部の本月★會は來る十七日開催する由委細は次號に報道すべし。
 本社主催美術小品展覽會
 本社にては今回社友諸君の深厚なる同情を得て本通信三百號紀念の爲め美術小品の展覽會を開催することに決定せり其規定の概要は左の如し。
 一、本展覽會は明治四十五年三月一日より同月三日まで三日間上野公園精養軒に於て開催し汎く同好者の觀覽に供す。
 一、本展覽會は社友諸君の新作に成る美術及び美術工藝品を出陳するものとす。
 一、本展觀會の出品ば悉皆賣約に應ず。
 而もて出品は繪畫(西洋畫を除く)に在つては尺五若くは尺三を主とし美術工藝品も之れに準じ普通展覽會に見るが如き大作無しと雖ども何れも作家諸君丹誠に成れるものなれば其趣味の豐富なる點に至つては本會の特色として竊かに誇らんとする所なり尚ほ其出品の内容等は逐次報道することとし爰には本會の擧を賛し特に出品を快諾せられれる作家諸君の芳名を紹介する事とせり(芳名いろは順)
 池上秀畝池田蕉園今村紫紅伊藤綾春
 石川精華石川光明板谷波山六角紫水
 畑仙齢堀川光山保坂光山豐川秀靜
 豊川光長尾形月耕尾竹越堂尾竹竹坡
 尾竹國觀岡崎雪聲川合玉堂梶田半古
 川端玉章川端玉雪川端茂章鏑木清方
 香川勝廣桂光春横山大觀吉田芳明
 葛島北海高橋廣湖田中頼章高村光雲
 武石弘三郎津端道彦塚田秀鏡根本雪篷
 中倉玉翠邨田丹陵村瀬玉田海野勝珉
 野田九浦野口駿尾山内多門山岡米華
 山田敬中保間素堂山崎朝雲山本瑞雲
 松本楓湖益頭峻南松林桂月福井江亭
 船越春民小堀靹音小坂芝田小室翠雲
 小林呉?寺崎廣業荒木探令荒木十畝
 赤塚自得佐竹永陵佐藤紫烟木村武山
 北野恒富由井彦太郎結城素明宮内幸太郎
 宮川香山下村觀山島崎柳塢下村清時
 廣瀬東敏諸星成章森鳳聲
 右の外若干名あり確定の上更に報道すべし

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