みづのいろいろ

市島春樹
『みづゑ』第八十六
明治45年4月3日

  水は外物を假りて、多く趣をなす、溢流に橋の架する、亭樹の水に臨む、紅燈の水に映ずる、流螢の水面を飛ぶ、小艇の水に泛ぶ、漁夫の綱を飜す、兒童の論を垂る、水禽の水を掠めて飛ぶ、皆水に趣を添ふ。
  影の水に映じて趣昧あるもの、日く帆影、曰く橋影、曰く山影、曰く塔影、曰く花影、曰く月影、曰く燈影、曰く雲影、日く櫻影、曰く鳥影。
  聲の水を渡りて趣あるもの、曰く櫓聲、曰く鐘聲、曰く絃聲、曰く款乃、曰く笛聲、日く禽聲、曰く擣衣聲。
 夜雨一過、街上燈光滿地、吾此光景を愛す。
  夜水は活氣なし、唯だ燈影の落村を得て、活氣あり。
  (日本人第五百十七號、市島春樹)

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