賣り切れぬうちに御注文あれ
『みづゑ』第八十七
明治45年5月3日
初期時代の「みづゑ」は賣り切れて市中には零本殘册をすら存せず今日となりては手★へるゝこと先づ望みなき程なるにも拘はらず購入希望の向き頗る多★やうなるがその時の「みづゑ」に挿入したる水彩石版は故人大下藤★郎氏の好みで當時「みづゑ」に挿入以外に數十部餘分に印刷させ本會に保存しあるものなるが今回簿書整理上格安の廉價を以て上記★如く發賣すすることとなりたれば當時の「みづゑ」を有せざる御方は右★で幾分の★を醫せらるべしと信ず抑も「みづゑ」刊行時は★★★彩印刷術未だ頗る幼稚にして故人大下氏は常に★★らく自分は「みづゑ」の挿繪では隨分印刷所をやかましく言つて氣に入らなけば何度でも刷り直させるつまりは自分が金を捨てゝ本邦の印刷術、進歩させてゐるようなものだ」と是等の臨本は實に大下氏が督勵★下★良工の苦心に成りぬるものにして一面は本邦洋畫印刷★歩史の一階段をなせる標品として歴史的にも珍重すべきものありと信ず
高價の時分に直接本會に注文せられた御方に對しては賣捌上の信義を保つため改めて一部を無代呈上することにした