問に答ふ


『みづゑ』第八十九
明治45年7月3日

■小生儀夏期休業中上京し素描又は水彩畫を修業したし、何處にてか御指導せらるゝ所無之や(廣島戸谷一雄)◎多くの研究所は、夏期は休暇なれど、溜池洋畫研究所(もと白馬會)にては、夏期も授業致す由なり但し、水彩畫は敎授するや否や不明、又畫家の多くは夏期旅行中なれば
 一個人の指導に當らるゝや否や不明、■一、調子の弱き繪とは如何なる繪なるか、又その繪は善き繪なるや又惡しき繪なるか、二、次の語の意義ボデーカラーローヵルカルラー、コンポジシヨン、アンデパンダン(AWA成節生)◎一、調子の善く、調ふて居るものを調子が強いと云ひ、其れに反したるものを弱き調子と云ふ、故に、暗き畫にても完全に調子か調ふて居らされば弱い畫と云ひ、明るい畫にても調子がよく、調ふて居れば調子は強いと云ふ事が出來る、二、ボデーヵラーはホワイトの入つた、不透明な繪具の事、ローカルカラーに、地方色、即ちある一地方に特に、著しく感ぜらるゝ色コンポジシヨンは構圖、アンデパンダンに佛語にして英語のInde pendentなり、
■一、水彩畫を描く上に於て、みだりに濃厚なる色彩を施すは不可なるものにや、二、陰影を描くには普通如何なる色を用ゆるか、三、水彩畫筆に先のあるものより無きものゝ方可なるか、四、水彩畫を描く上に於て、繪具を施したる、跡の良く見ゆるものがようきしか、(棕梠花生)、◎一、濃厚なる色彩を施すのに、決して差支へはないが、みだりに施す事は不可、二、こゝでこう云ふ色を影に用ふると設明しても自然は、決して其通りになつて居ない、其物體自身の色や周圍の色や光線の工合で色々に變化するものである故に、こゝに、説明する事は出來ないが、普通多くの場合には、強い透明した色が用ひられる、三、これも人々にょつて好嫌はあれど普通先のあるものより少し無くなりし物の方が良し、四、砥石を用ひたる如きなめらかな物より、描きたるものらしき方がよし、されど無鐵砲なる、筆の跡は困る。

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