自然の色うつりよき
草水生
『みづゑ』第十一
明治39年4月18日
この夏、ある天氣のよい日の九時頃でした、私は隣村に用達に行く途中、右手にはもう穗の出さうな麥畑が續きて、その彼方には青い木立の山が強い日影を斜に上から浴びてゐました、平常には別に氣にとめた事もなかつたのに、當日は妙に鮮明して、私の目を引き附ける何者かゞあるやうに感じたので、それからと云ふものは、何事によらず氣をつけてゐました、ところが、觀れは觀るほど、自然の色のうつりのよさ、毎度、心がサツパリキ拭ひ去られるのです、その後、友人から、水畫のケスッチなるものを示されたとき、私は自然に對した時と同しやうな興味を感じました、それが、そもそも私の水畫に志した因縁です。