いつかは實を結びて
TM生
『みづゑ』第十一
明治39年4月18日
私は肥前の片田舍に住ふ本誌讀者の一人でありますが昨春友人の家で、或雜誌の美しい水彩畫の口繪を見まして、自分も畫ひて見たい樣な感が致しました。で早速其本を貸して貰つて用紙に模寫して見たが一向其繪に使つてある樣な色が出ませんので此は繪具が惡ひ爲だろうと其儘止めてしまいました。
處が其夏本誌が出ましたので早速買って見ると先づ卷頭の口繪、此を見て居ると見ている程美しく、私の水彩畫熱は又むらむらと再發しました。其からずつと頁をくつて十三頁の『ういまなびの方へ』。と言ふ所を讀んで見て、自分等の樣な初學の者も畫き能はぬ事はあるまいと早速用意をして大膽にも野外へ飛び出し、イーゼルならぬ膝の上にて畫ひて見ましたが思ふ樣な色は出ず、青色許の化物の樣な畫が出來ましたで、是は戸外の寫生が餘り早かつたのかと、家へ歸つて色々の繪具を混せてやたらにやつて見たが、遂に失敗に終りました。其から本誌第五にスケッチの説明が載せられましたので其によつて描ひて見ました所が此度は繪らしい物が出來ました。斯く度々失敗致しましたが是が却て自分に奮發心を起さしめ、益々面白味を感する樣になりまして、何時かは實を結ぶの時あらんと熱心にやつています。併し鄙地の事で大家の肉筆畫を見る機會のないのが一番の困事です。