セツセツと勉強
宮澤灯煙
『みづゑ』第十一
明治39年4月18日
僕の業は織物で有るから其れの意匠等を物する上に於ても畫とはどうしても蜜接の關係を有して居る、先年織物視察として桐生足利地方を巡遊した折、廻り廻つて桐生織物學校へ立寄つた、其時圖案室で見たのが英國や佛蘭西から購入したと云ふ水彩畫で、花鳥山水等を描いた實に立派の者であつた、
始めて夫れを見た僕は、あー自分も願くは繪具を以つてこー云ふ風に實態を寫して見たい者だとむらむらつと此時に感を湧かした、其后程經て本屋で見附たが彼の大下先生の水彩畫階梯、僕は夫れで道具立をなし着色法を覺えた、サアー、始めて見ると甘く行ぬは行ぬは實際思ふ百分一にも及ばない、が夫れ以來は何よりの樂としてせつせつと勉強して居る。