この美しい繪に

田内眞隆
『みづゑ』第十一
明治39年4月18日

 僕が水彩畫を學び初めたのは實に子供らしい競爭心から起つたので、それは昨年即ち中學校の二年生の時であつた。何故僕が左樣に早く水彩に手をつけたかと云ふと、其れは僕と同クラスにB氏と云ふよくかく者が居たが、いつも美しい繪を持つて來るので實に羨望に堪へなかつた。然し其時はまだ自身かくと云ふ心はなかつたが、ある時校内で繪畫の展覽會があつた其時、出品せられたのは多くは水彩畫であつた。僕は此の美しい畫に接すると直ちにある一種の競爭心が起つたのである。其れからといふものは、嘗て羨望と嫉妬とて見て居た水彩畫を學び初めた。
 鳴呼僕はかやうな動機よりして遂にある越味を感得する事が出來たのである。

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