三脚片手に

茅野滴翠
『みづゑ』第十一 P.13
明治39年4月18日

 『水彩畫階梯』の示す所により始めて寫生に出た。此の日コバルトブルーの樣に頗る的快晴て有た、寫生箱を肩へ負ふて、三脚片手に希望と喜悦に滿たされて飛び出した。場所は豫て撰んであるから其所へ向かつて踏み出した、道々遠景の森、緑の麥、田の畔の藁稻叢皆好畫題だ、然し手に餘る、今少し先へ行たらばと他の方面を捜索したけれども、是れならばと思ふ畫題は見付からず、遂に心身疲れて、寫生帳の一片へ鉛筆の輪廓を殘したのみで、失望落膽して悄々と歸宅した。

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