自然に近いやうにと
松風生
『みづゑ』第十一
明治39年4月18日
私は幼少の時から繪が好きて雜誌や新聞の繪を見て樂んて居ました筆を取つて畫く事を覺えてからは一種の面白味を感しました、それで次第次第に繪畫熱の爲温められ小學時代よりは中學時代、一年よりは二年と其熱度が高まつて來たのてあります。
小學時代に學んだ繪は日本畫てありましたが中學時代になつては鉛筆畫を學びました。所が日本畫は日常實見して居る所の自然と適合しない點が多いから不滿足で、自然に近い樣に畫いて見たいと常々思つて居ました。
時にふと『水彩畫階梯』を見たのて其内容を見ますと丁寧に自然を寫す法が説明してありますからそれに因つてやつて見ますと不束にも自然に似たものが出來ました、それからはひたすら練習しました。
練習して居る中にも手本に因つて畫いた時と自然に因つて描いた時とは大ぶ異つて見えまして、手本に因つて描いた時は、色合が同じに出來ますが活氣のないものが出來ます。自然に因つて描いた時は活氣があつて面白き色が出來ます。それで手本はたゞ濃淡や色の配合の參考として、主に野外寫生に志して居ります。今は同志の友と學業の餘暇熱心に研究して居ります。