曉海曲
山本野琴
『みづゑ』第十一
明治39年4月18日
海天とほく東の
彩よ榮えある紫の、
帷くつれてまぶしげの
眞紅の光、映る見よ。
遠くなつては近うなり
近うなつては遠くなる、
朝光みつる波よその
悠々の音によせて來よ。
昨夕、豐漁のまゝなりし
磯舟ゆるよ歡樂ある、
歌音、秘めつゝ今こゝに
おゝ新潮はみちたりな。
濱小家包む靄はれて
具殻屋根のま白きに、
おゝ朝の日はおごそかに
微彩の影をなげられぬ。
島を包める靄はれて
曉帆とほく影白く、
金線ちかくたゞよふて
明の鴎の羽根に映ろふ。