美術品とは(高橋義雄氏)

 
『みづゑ』第五十四 P.19
明治42年9月3日

 美術品と工藝品とは、一體に大層接近してゐるものだが、唯美術品はパン問題を頭の中に置かずに製作したものでなければならぬといふ點に於て工藝品と違ふ。即ち今少し金をかければもつと立派に美術的にゆくが、金をかけないで之れで滿足しやうといふ樣な風で拵へられた製作品は、眞の美術品といふことが出來ぬ。言ひ換ふれば、美術品とは、生活とか報酬とか、経費とか云ふ事を、全く眼中に置かずに、最上の力を盡して拵らへられたものであらねばならぬ。之に反して工藝品は製作すれば他に同一のものが幾らも出來る。それで、今日日本に於いて美術品は、昔に比して進歩しれ處が見えない。と云ふのは明治の美術家が昔の美術家と、其人物の精紳が相違してゐるからであらうが、其他にも原因がある。(中畧)明治の美術家の作は展覽會に出すために作ったものであるから、自分が出品しても買人が無いとした場合には、其日の生活にも困るといふ考から、作るものも金錢を頭の中へ入れて作るといふ譯で、品物のうちに其趣きが自から現はれ人をして崇高の感を起さしめぬのである。美術家の製作品程其人の性格を現はすものはない高尚な考の人が作つたものは自ら高尚な趣きが溢れてゐる(高橋義雄氏、商業界)
 

甲州駒ヶ岳中林★筆

この記事をPDFで見る