寄書 日本の風景は東北にあり

藤花
『みづゑ』第五十四
明治42年9月3日

 「日本の風景は東北にあり、東北は恰も、支那の蜀の如く、叉歐洲の瑞四の如し。」とは誰かゞ云つた語でありますが、實に我が東北の地は、風景の佳に富んで居ります、松島象潟なんど昔から名のあつたのもずゐぶんありますが、またあまり世間へ知れて居ないところにも、去り難い眺めは澤山存して居ります。
 我が里はかゝるところにありて西には岩手の秀峯屹然として、その壮大なる姿を雲上にあらはし、北水の流れは中央の平原をうるほして太平洋にそゝいで居ります、實に雄大なる、肚嚴なる、他にあまりその比を見ないことゝ思ひます、かゝるところをとつて畫にしたならば、眞に大なる作が出來やうと思ひます。風景を愛する諸君、三脚を手にし、スケツチ箱を肩にして、我が東北の地に、壮遊を試みんとする人はありませんか。

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