寄書 海岸の一日
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『みづゑ』第五十四
明治42年9月3日
此處は柏崎の海岸だ。私と親友○君とは砂原なザクザク踏みながら彼方の丘に向つてゐる今しも海は午後の太陽に照りっけられて濃い濃いインヂゴーに染つてちぎれて飛んでゐる白い雲の下には佐渡が烟の樣に霞んで二重にも三重にも重つてゐる。
丘には何とか云ふ尺ばかりの草が密生してゐる。はげしい日光に抵抗はしてゐる樣なものゝ葉はガサガサして光なく埃でも積つてゐる樣だ。丘を下ると一寸した林がある。其中に這入つてだるい樣な波の音を聞きながらスケツチした。
白つぽい砂に入り亂れた幹に青い青い葉、丁度晩霞先生の小笠原島の畫にそつくりだと思つた。
三時間ばかりこびり付いて其處を出た頃は夕榮えの色鮮にオレンヂ色の空には紫の雲が三つ四つ投げた樣に浮んでゐて白帆も何時の間にか無くなり汽船の烟のみ長く長く引いてゐた。後の山はどれもどれも順を追ふて黒ずんで行く。