寄書 CHANCEに就いて

一會友
『みづゑ』第五十四
明治42年9月3日

 漱石著「漾虚集」中の幻影盾にヰリアムが其戀人の父を夜鴉の城に攻むる數日前初夜過ぎに冷たい臥床の上に既往を考へ出す條りに左の樣な處があります。
 「……ある時は野へ出蒲公英の蕋を吹きくらをした、花が散つてあとに殘るむく毛を束ねた樣に透明な球をとつてふつと吹く、殘つた種の數でうらなひをする。思ふ事が成るかならぬかと云ひながらクララが一吹きふくと種の數が一つ足りないので思ふ事が成らぬと云ふ辻うらであつた。するとクララは急に元氣がなくなつて俯向いて仕舞つた。何を思つて吹いたのかと尋ねたら何でもいゝと何時になく邪慳な返事をした。其日は碌々口もきかないで塞ぎ込んで居た・・・・・・・・」(P.bb)みづえ五十號口繪のCHANCEも右と同じ樣な意味では無いでせうか。

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