銀と青と
奥村博
『みづゑ』第八十四 P.14
明治45年2月3日
白壁に月は光れりいづこともかびの香まよふさみしき夜なるゆらゆらと水にうつれる提燈の火かげ淋しくなつかしきかな指の先き冷き玻璃戸の悲しみの沁みるをおぼえ涙ぐまるゝ故郷の山遠きかな此夕べ我さびしくもハモニカを吹くともすれば紫色になやましううつむきがちのおいらんの花此夕べ蚊帳の靑さに涙ぐむ胸のもだえと海遠鳴りとチヤブ台にごぼれし牛乳の香をかぎて我悲しめり父病める夕
奥村博
『みづゑ』第八十四 P.14
明治45年2月3日
白壁に月は光れりいづこともかびの香まよふさみしき夜なるゆらゆらと水にうつれる提燈の火かげ淋しくなつかしきかな指の先き冷き玻璃戸の悲しみの沁みるをおぼえ涙ぐまるゝ故郷の山遠きかな此夕べ我さびしくもハモニカを吹くともすれば紫色になやましううつむきがちのおいらんの花此夕べ蚊帳の靑さに涙ぐむ胸のもだえと海遠鳴りとチヤブ台にごぼれし牛乳の香をかぎて我悲しめり父病める夕